
今回は、世界の三大宗教の一つであるキリスト教の聖典「聖書」について詳しく解説します。
聖書は「旧約聖書」と「新約聖書」に分かれていますが、その違いや内容、また似た宗教の聖典との比較など、これから聖書を読んでみたい方や宗教に興味がある方に向けて、わかりやすく説明していきます。
- 旧約聖書と新約聖書の成立時期や内容の違い
- 神との契約の違いとその意味
- 聖書に登場する主要人物や物語の違い
- ユダヤ教とキリスト教における聖書の位置づけ
目次
旧約聖書と新約聖書の違いとは?わかりやすく簡単に

旧約聖書と新約聖書の基本
聖書は、「旧約聖書」と「新約聖書」という二つの大きな部分に分かれています。ここでの「約」とは「契約」を意味します。つまり、神と人間との間の契約を記した書物が聖書なのです。
「旧約」とは神との古い契約という意味で、「新約」とは神との新しい契約という意味です。ユダヤ教にとっては旧約聖書だけが「聖書」であり、キリスト教は旧約聖書と新約聖書の両方を聖典としています。
旧約聖書は紀元前4〜5世紀に成立し、新約聖書はイエス・キリスト以降に成立しました。キリスト教の視点では、旧約聖書は新約聖書の前提という位置づけとなっています。
旧約聖書の内容をわかりやすく
旧約聖書は、神による天地創造から始まり、イスラエル民族の歴史と神との関係を記した書物です。主な内容は以下のとおりです。
- 天地創造と部族長の物語:アダムとイブの創造、ノアの箱舟、アブラハムの物語など
- モーセと律法:モーセによるイスラエル人のエジプト脱出、十戒の授与
- 歴史記述:イスラエル王国の盛衰、バビロン捕囚など
- 預言者たちの事跡と預言書:イザヤ、エレミヤなど多くの預言者の言葉
- 知恵文学:箴言、詩篇、ヨブ記など
- 詩歌:雅歌、哀歌など
旧約聖書はイスラエルの民の歴史であり、その歴史の中からダビデという王様が現れ、その家系から人類の救い主(メシア)が誕生するという約束が与えられたことが大きなテーマとなっています。
新約聖書の内容をわかりやすく
新約聖書は、イエス・キリストの生涯と教え、そして初代キリスト教会の歴史を記した書物です。主な内容は以下のとおりです。
- 福音書:マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネによる4つの福音書でイエスの生涯と教えを記録
- 使徒言行録:初代教会の歴史
- パウロの手紙:初代教会の指導者パウロによる様々な教会への手紙
- 公同書簡:ペテロ、ヨハネ、ヤコブなど他の使徒たちの手紙
- ヨハネの黙示録:終末の預言を含む書
新約聖書の中心メッセージは、「約束の救い主(メシア)であるイエス・キリストが到来した」というものです。つまり、旧約聖書で預言されていた救い主がイエスであり、彼を通して神との新しい契約が結ばれたということが記されています。
旧約聖書と新約聖書の主な違いを比較
旧約聖書と新約聖書の主な違いは以下の点にあります。
特徴 | 旧約聖書 | 新約聖書 |
---|---|---|
成立時期 | 紀元前4〜5世紀 | 紀元後1〜2世紀 |
中心人物 | モーセ、ダビデなど | イエス・キリスト |
神との契約 | 律法を守ることによる契約 | イエスを信じることによる契約 |
対象 | 主にイスラエル民族 | すべての民族 |
使用言語 | 主にヘブライ語(一部アラム語) | ギリシャ語 |
巻数 | 39巻(カトリックは46巻) | 27巻 |
旧約は、イエス・キリストが来られる前の神が人間の救いについて、人間と結ばれた「契約」であり、新約は、キリストが来られた後の契約です。この二つの契約には一貫した「救いの物語」という主題があります。
聖書とコーランの違いは?共通点と相違点
イスラム教の聖典である「コーラン(クルアーン)」と聖書には、いくつかの共通点と相違点があります。
共通点
- どちらも唯一神を信じる宗教の聖典
- 共通する物語や人物が多く登場する(アダムとイブ、ノア、アブラハム、モーセなど)
- イエスは両方に登場する(ただし位置づけは異なる)
相違点
特徴 | 聖書 | コーラン |
---|---|---|
成立時期 | 旧約:紀元前、新約:紀元後1〜2世紀 | 7世紀(610年〜632年) |
著者 | 複数の著者(40人以上) | イスラム教では神の啓示とされる |
記録者 | 様々な預言者や使徒 | ムハンマド(預言者) |
言語 | 旧約:ヘブライ語・アラム語 新約:ギリシャ語 | アラビア語(翻訳は注釈書扱い) |
イエスの位置づけ | 神の子、救い主(キリスト教) | 偉大な預言者の一人(神の子ではない) |
構成 | 物語、歴史、預言、詩、手紙など多様 | 114章(スーラ)の啓示の集成 |
イスラム教では、コーランは聖書よりも信頼性が高いものとされ、聖書はコーランに一致する範囲でのみ信頼できるとされています。コーランは、ユダヤ教の旧約聖書、キリスト教の新約聖書を確証すると同時に、それらを置き換える存在と考えられています。
旧約聖書と新約聖書の違いとは?言語や神の違い

言語の違いについて
聖書は元々、複数の言語で書かれました。
- 旧約聖書:主にヘブライ語で書かれています。ただし、一部の箇所(エズラ記4:8〜6:18、7:12〜26、ダニエル書2:4〜7:28など)はアラム語で書かれています。
- 新約聖書:全てギリシャ語で書かれています。具体的には当時の国際共通語であった「コイネー・ギリシャ語」と呼ばれるものです。
イエス時代のパレスチナでは日常生活ではアラム語が話されていましたが、新約聖書はギリシャ語で記録されました。これは当時のローマ帝国内で広く使われていた言語だったからです。
現在、聖書は3000以上の言語に翻訳されており、世界中の人々がそれぞれの母国語で聖書を読むことができます。
神は違うのか?
一部の人々は、旧約聖書の神は厳格で裁きの神、新約聖書の神は愛と慈愛の神というように、異なる性格を持つように感じることがあります。しかし、キリスト教の正統的な理解では、旧約聖書と新約聖書に描かれている神は同じ存在であるとされています。
違いに見えるのは、神の異なる側面が強調されているからであり、また人間との関わり方が、歴史の中で変化してきたと考えられています。神自身が変わったのではなく、神が人間に対して自らを啓示する方法が発展してきたのです。
旧約聖書でも神の慈愛や赦しは強調されていますし、新約聖書でも神の裁きや聖さは重要な要素として描かれています。旧約聖書で約束された救い主は、新約においてより完全に現され、究極的な神の愛は、イエス・キリストを遣わされたことで示されています。
どちらから読むべき?
初めて聖書を読む方には、一般的に新約聖書から読み始めることが勧められています。特に「ヨハネによる福音書」から読み始めるのがおすすめです。
理由としては
- 新約聖書は比較的短く、読みやすい
- イエス・キリストの生涯と教えが中心となっており、キリスト教の核心を理解しやすい
- 現代の価値観や倫理観に近い内容が多い
旧約聖書を読む場合は、「創世記」や「箴言」から読み始めるのが良いでしょう。創世記は物語形式で世界と人類の起源を描いており、箴言は日常生活の知恵が詰まった書です。
ただし、旧約聖書は分量が多く、また現代の文化や価値観とは異なる背景を持つため、理解するのに時間がかかる場合があります。焦らず、少しずつ読み進めることをお勧めします。
聖書の理解を深めるために
旧約聖書と新約聖書は、神と人間との契約という一貫したテーマを持ちながらも、それぞれ異なる時代背景と視点を持っています。その違いを理解することで、聖書全体のメッセージをより深く理解することができます。
聖書を読む際は、単なる古い宗教書として読むのではなく、人類の歴史、文化、思想に大きな影響を与えてきた書物として、幅広い視点から読むことをお勧めします。また、難しい箇所にぶつかった時は、注釈書や解説書などを参考にするとよいでしょう。
旧約聖書と新約聖書、そしてコーランなどの関連する宗教書を比較して読むことで、世界の主要宗教の類似点や相違点を理解することもできます。宗教は文化の重要な一部であり、その理解は異文化理解や国際交流にもつながるでしょう。
聖書に興味を持った方は、ぜひ実際に手に取って読んでみてください。新たな視点や考え方、そして人生の知恵を得ることができるかもしれません。
旧約聖書と新約聖書の違いをわかりやすく解説|要点まとめ
この記事全体の要点を以下にまとめます
- 旧約聖書は神とイスラエル民族との古い契約を記した書物
- 新約聖書はイエス・キリストを通した新しい契約を示す書物
- 旧約聖書は天地創造からイスラエル民族の歴史までを描く
- 新約聖書はイエスの生涯と初代教会の歩みを記録している
- 旧約の中心人物はアブラハム、モーセ、ダビデなど
- 新約の中心人物はイエス・キリストである
- 旧約は律法を守ることが神との契約の中心
- 新約はイエスを信じることが神との契約の条件
- 旧約は主にイスラエル民族が対象
- 新約はすべての民族が対象となっている
- 旧約は主にヘブライ語で書かれている(部分的にアラム語)
- 新約はギリシャ語(コイネー)で書かれている
- 旧約はキリスト教とユダヤ教の共通聖典
- 新約はキリスト教独自の聖典である
- 旧約は救い主の到来を預言し、新約はその成就を語る