「出馬」と「立候補」の違い|意味や使い方と例文で解説
「出馬」と「立候補」の違い|意味や使い方と例文で解説

「出馬」と「立候補」はニュースや政治記事で頻繁に登場する言葉です。多くの人は「どちらも選挙に出ること」と認識していますが、実はその意味合いや使われ方には明確な違いがあります。結論から言うと、「出馬」は選挙に出る意思を表明する段階であり、「立候補」は法律上の正式な手続きを経て候補者として登録された状態を指します。

簡単に述べると、

  • 「出馬」はより口語的・広義的な言葉で、「選挙に出る意思を示す/表明する」イメージ
  • 「立候補」は法律上の制度・手続きを前提とした「正式な候補者登録」の意味

という差があります。本稿ではこの結論を裏づける解説を順を追って行います。

「出馬」とは何か?

出馬の定義と背景

「出馬(しゅつば)」は、「馬を出す」という古語表現から派生し、比喩的に「物事に参加する」「立ち向かう」意味を含み、特に選挙の文脈では「選挙に出る/出馬する」という使われ方をします。
辞典的には、選挙戦において「候補者として名乗りを上げる」ことを指しますが、必ずしも法的な候補者登録が完了している状態を意味しない場合もあります。

一般社会・メディアでは、「××に出馬を表明した」「次期選挙に出馬する可能性がある」など、意思表明の側面が強く使われる傾向があります。

歴史的には、競馬などでも「馬を出す/出馬する」という言い回しが使われていたため、選挙への転用も自然発展したと考えられます。

出馬が必要な理由

なぜ「出馬」が用いられるかというと、選挙民主主義の下では、候補者が名乗りを上げなければ選択肢がないため、有権者に選ぶ対象を示すためです。政治者・活動家の観点では、出馬表明を通じて支持者の賛同を得たり、世論を喚起したりする意味があります。

また、出馬を宣言することで「私はその選挙に関心を持っている」「この政策を訴えていきたい」というメッセージ性を持たせることができます。

ただし、出馬表明をしただけでは、法的には選挙候補者と認められないため、次段階として「立候補」の手続きを経る必要があります。

出馬の流れと手続き

「出馬」には明確な手続きというものは法律的には定義されておらず、実質的には次のような段階で使われます

  1. 意向表明・検討
     有権者や支持者との相談、政策構想の準備、準備資金の算定など。
  2. 出馬宣言
     メディア発表、演説、記者会見などで「私は○○選挙に出馬します」と公表。
  3. 候補者登録(立候補手続き)
     出馬表明後、法律に基づく手続きを行って立候補者として登録されなければならない。

つまり、「出馬」は始まりのフェーズであり、「立候補」はその後段階にあたります。

「立候補」とは何か?

立候補の定義と意義

「立候補(りっこうほ)」とは、ある選挙において、「候補者になるために自分自身を登録すること」を意味します。辞書的には、「選考・選定される立場に就く候補者の状態」・「特定の席位や役割を争うために、正式に名前を挙げること」などが定義されます。

つまり、立候補するためには法律的な要件を満たし、正式な届出を行う必要があります。これにより、その人物は選挙運動や選挙公報などで正式な扱いを受ける権利を得ます。

立候補の意義としては、民主主義制度において「誰でも政権や代表の座を目指せる」ことを保障するという側面があります。また、立候補を通じて有権者に訴える機会を得ることになります。

立候補の流れと届出の方法

日本における立候補の流れと届出の方法は選挙の種類によって多少異なりますが、基本的な流れは以下の通りです:

  1. 被選挙権を確認する
     その選挙に立候補できる年齢・資格を満たしているか確認。
  2. 供託金を納付する
     法務局へ一定額を預ける必要がある。
  3. 立候補届出書等を提出する
     選挙管理委員会に所定書類を提出する。
  4. 選挙運動を開始
     届出が受理された後から、選挙運動が許される(一定の制限下で)。
  5. 収支報告など義務を果たす
     選挙後に運動費用の報告書提出等を行う。

届出の方法には、主に以下の3方式があります:政党届出、本人届出、推薦届出。 神奈川県公式サイト
(※選挙の種類・制度によっては使えない方式がある)

神奈川県の例を挙げると、以下のような届出方式があります

届出方式意味適用可能な選挙種類
政党届出政党や政治団体が候補者を届け出る小選挙区、比例代表など一部
本人届出候補者本人が直接届け出る多くの選挙で可能
推薦届出支持者が推薦して届け出る地方選挙などで可能

なお、立候補届出時には添付書類が複数必要です。代表的な例としては、供託証明書・宣誓書・戸籍謄本/抄本・住民票抄本・所属党派証明書・通称使用認定申請(通称名を使う場合)など。

届出時間も定められており、通常「午前8時30分〜午後5時」の間に提出しなければなりません。

立候補に伴う費用と制約

立候補には、ただ届出をするだけでなく、費用負担や法的制約も伴います。

  • 供託金
     立候補時に法務局に預ける現金または国債証券です。得票率が一定水準未満の場合には没収されます。無責任な立候補を防止する役割があります。
     供託金額や没収基準は選挙の種類により異なります。
  • 選挙運動費用の上限
     選挙運動に使える費用は制限されており、これを超えると違法となります。
  • 被選挙権を失う条件
     以下のような条件に当てはまると立候補できない(被選挙権を失う)ことがあります:
    • 禁錮以上の刑を受けその執行を終えていない者
    • 選挙犯罪で有罪判決を受け、その執行が確定している者
    • 特定の公職・政治資金規正法違反などにより権利停止中の者
  • 届出後の義務
     収支報告の提出、公費負担請求、選挙公報掲載申請などの手続きがあります。東京都選挙管理委員会でも案内されています。
  • ポスター掲示場所の割り当て等の順序性
     届出の時刻が早いと有利になるなどの事実もあります。例えば、朝早めの届出で掲示板位置をくじ引きの上位にできる等の配慮があります。

このように、「立候補」はかなり厳密な制度設計と制約のもとで行われる手続きです。

「出馬」と「立候補」の違い

法的な違い

観点出馬立候補
法律上の定義明確な法律用語ではない、より口語的・表現的公職選挙法など制度的根拠をもつ正式な手続き
必要手続き明確な法定手続きはない選挙管理委員会への届出、供託金納付、書類提出など
登録状態「選挙に出る意思を表明」する段階正式に候補者として登録され、選挙運動権を持つ
取消・撤回の意味意思を撤回できる段階が柔軟届出が受理された後には形式的な取消手続きが必要になる場合も

要するに、「出馬」はもっと自由度・流動性があり、「立候補」は制度・法令という枠組みによって縛られている点が大きな違いです。

政治活動との関連性

出馬宣言は、政治活動上のアピール手段であり、支持者動員や世論形成を意図して使われます。

立候補後は、法律に則った政治活動(選挙運動)が可能となり、ポスター掲示、公報、街頭演説、選挙カー運行など、選挙制度により定められた方法に従う必要があります。

出馬段階ではまだ「選挙運動」の制限や規制の対象外、あるいは限定的ですが、立候補後は選挙法・政治資金規正法・選挙運動規制(戸別訪問禁止、寄附制限、交通費領収書義務など)を遵守しなければなりません。 東京都選挙管理委員会

たとえば、選挙期間外における寄附や贈答行為などには制限があります。

選挙運動における役割

出馬宣言の段階では、主に象徴的・宣伝的意味合いで、「この人物が参戦する」という情報を有権者に伝える役割があります。

立候補後は、実際に有権者に訴えかけ、票を獲得するための活動(演説、政策説明、ポスター掲示等)を行う段階になります。

出馬段階で支援基盤や資金調達ルートを固め、立候補段階に備えるという戦略も一般的です。

一方、立候補して届け出が受理されなければ、選挙運動の正式な位置づけを持たず、選挙管理委員会の支援(公報掲載、公費使用等)も受けられません。

このように、選挙における出馬と立候補の違いは、意思表明段階制度的登録段階という時間軸と法制度の軸を意識すると理解しやすくなります。

選挙に「立候補」するにはどうすれば良いか?

立候補するための必要条件

立候補にあたっては、以下のような条件(被選挙権要件・制限要件)を満たすことが求められます。

被選挙権要件(積極要件)

選挙の種類ごとに年齢要件・国籍要件・住所要件などがあります。

  • 衆議院議員:日本国民で 満25歳以上
  • 参議院議員:日本国民で 満30歳以上
  • 都道府県知事:日本国民で 満30歳以上
  • 地方議会議員:日本国民で 満25歳以上
  • また、地方選挙では一定期間その自治体に住所を有することなど住所要件がある場合もあります。( 港区公式サイト

制限要件(消極要件)

以下のような条件に該当する場合は、被選挙権を失う、または立候補が制限される可能性があります

  • 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終えていない者
  • 選挙犯罪で有罪判決を受け、執行猶予期間中を除く者
  • 政治資金規正法違反等で権利停止中の者

届出書類・添付書類

前章でも触れましたが、立候補届出には以下の書類が一般的に必要となります

  • 供託証明書
  • 宣誓書
  • 所属党派証明書(政党所属の場合)
  • 戸籍謄本または抄本
  • 住民票抄本
  • 通称認定申請書(通称名を使う場合)

これらの書類は期限内に不備なく提出する必要があります。

期間とその重要性

立候補届出には期間制限があります。通常、公示・告示された日のみが届出受付日とされます。つまり、選挙管理委員会はその1日間だけ立候補届出を受け付けるのが原則です。

受付時間は通常「午前8時30分〜午後5時」の時間帯に設定されており、休日・平日を問わず同じ時間帯で受け付けることが多いです。

この期限を逃すと、立候補できないため、候補希望者は事前準備を十分行っておく必要があります。

また、公示・告示自体も選挙種類ごとに異なる日程で行われます。たとえば、衆議院選挙では期日前12日前に公示されるケースがあります。

立候補届出の順序・時間によっては、ポスター掲示板の場所などがくじ引き順で決まるなど、時間的優位性が影響を与えることもあります。

都知事選挙に特有のポイント

都知事選挙は全国でも最大規模の首長選挙であり、立候補には高度な準備が求められます。主な特徴は以下の通り都知事選挙など、首長選挙特有の要素もあります。例えば、都知事選挙では広域かつ注目度が高いため、以下のような点に注意が必要です:

  • 高額な選挙資金:広い選挙区を回るための交通費・宣伝費等が増大。候補者自身で資金調達が求められるケースが多い。
  • 公報・広報の媒体対応:都レベルではマスメディア等との調整、テレビ・ラジオ広告、新聞折込なども視野に入る。
  • 公費負担制度:都道府県・市町村選挙と比して、運営体制が複雑で、公費負担や選挙事務調整がより重くなる。
  • 政党支持・推薦の意味合い:大都市首長選では政党支持・推薦が選挙に与える影響が大きいため、これらを取り付ける戦略が重要になる。
  • 選挙区の広さ・地理的制約:東京都全域など地域が広いため、選挙運動エリアの設計や交通網計画が重要。

都知事選挙における立候補・出馬準備は、地方選挙とはスケールが異なりますので、資金・組織・広報能力などの実務力が求められます。

「出馬」と「立候補」の例文

「出馬」を使用した例文

  • 来年の市長選に出馬を検討している。
  • 党代表として国政選挙に出馬する意向を示した。
  • 無所属で出馬を表明した候補者が増えている。
  • 彼は再び選挙に出馬する可能性が高い。
  • 支持者に向けて出馬の意志を初めて語った。

「立候補」を使用した例文

  • 選挙管理委員会に立候補届を提出した。
  • 次期衆議院選に立候補を表明する。
  • 彼女は若い議員として市議会に立候補した。
  • 政党からの支援を得て立候補を決意した。
  • 届出期限までに立候補届出書を整えなければならない。

これらの例文を通じて、「出馬」は意思・表明の文脈で使われ、「立候補」は制度手続き・正式登録を意識した表現であることがわかります。

「出馬」と「立候補」の意味とその影響

出馬がもたらす影響

出馬宣言は、選挙戦の構図を形成する上で重要な役割を果たします。

リスクも伴う
 出馬宣言段階での発言には責任が伴い、批判や反対意見を招くことがあります。宣言と実際の立候補・戦略との整合性が問われることもあります。

選挙競争の形成
 出馬が表明されることで、有権者・ライバル候補・政党も対応を迫られるようになります。

注目・報道機会の獲得
 出馬宣言を行うタイミングや内容によってメディア注目を集め、支持者動員に効果をもたらすことがあります。

支持基盤動員と資金確保
 出馬表明を契機に支援者を動かしたり、資金調達の段階に入ることができます。

立候補が選挙に与える影響

立候補は、選挙制度の中で具体的な力をもって影響を及ぼします。

候補者としての法的権利確保
 選挙公報掲載、ポスター掲示、選挙運動管理下での活動など、制度上の特典・権利を取得します。

選挙戦の実行
 票を得るための戦略・政策訴求・組織動員を本格的に展開できます。

選挙結果への影響
 得票数や順位によって、当選/落選が決まり、政治の実権・政策形成に直接的影響を及ぼします。

責任と義務
 立候補後は選挙法・政治資金規正法・収支報告義務などを守らねばならないため、透明性や法令順守が問われます。

供託金の没収・返還
 得票率規定に達しないと供託金が没収される場合があり、これが資金リスクになります。

有権者の意識と選挙権の行使

出馬・立候補という動きは、有権者にも意識変化を与えます。

  • 選択肢の提示
     出馬・立候補により有権者に「選ぶ相手」が明確になるため、投票行動を促します。
  • 政策議論の促進
     複数の候補が政策を掲げて競うことで、有権者が政策を比較検討する機会が増えます。
  • 政治参加の刺激
     身近な地域からの立候補や若手の出馬によって、有権者が政治参加を意識しやすくなることがあります。
  • 信頼性・透明性のチェック
     候補者の公約、資金、運動手法などが注目され、有権者の監視意識を高める役割もあります。

このように、出馬・立候補というプロセスは、政治と社会をつなぐ重要な接点です。

まとめ:「出馬」と「立候補」の違い、意味や使い方

本記事では「出馬」と「立候補」の違いを、定義・法制度・手続き・使い方・例文・影響という観点から深掘りしました。以下、要点を整理します:

出馬
 → 選挙に出る意思を表明する段階で使われる、口語的・広義的表現

立候補
 → 法令に基づき、正式な届出をして候補者登録される行為

両者は時間軸と制度制度性という観点で明確に区別できます。出馬は「意思表示」、立候補は「制度的登録」です。

選挙に関心を持つ人がこれらの言葉を正しく使い分けられるようになると、政治報道や制度への理解も深まり、より建設的な議論ができるようになります。