
「悉く」と「尽く」は、どちらも「ことごとく」と読めて、「全部」「残らず」といったニュアンスを持つため、違いが分かりにくい代表格です。辞書では同じ見出しで扱われることもあり、意味の差があるのか、使い分けが必要なのかで迷いやすいんですよね。
さらに、読み方(ことごとく/つくす/つく)、漢字表記(常用漢字かどうか)、表外音訓、公用文やビジネス文書での書き方、例文の自然さなど、気にし始めるほど疑問が増えていきます。類語や同義語、対義語、言い換え、英語表現まで整理しておくと、文章の場面ごとの選び方がかなり楽になります。
この記事では、「悉く尽くの違いと意味」を起点に、語源・使い方・例文・言い換えまで一気にまとめます。読み方や表記で損をしないコツも含めて、今日から迷いにくい状態にしていきましょう。
- 「悉く」と「尽く」の意味の違いと結論
- 場面別に迷わない使い分けと表記のコツ
- 類義語・対義語・言い換え・英語表現の整理
- 例文で覚える正しい使い方と誤用パターン
悉くと尽くの違い
最初に、「悉く」と「尽く」の違いをざっくり整理します。結論だけ先に押さえ、その後で意味・語源・例文を積み上げると、理解がブレにくくなります。
結論:悉くと尽くの意味の違い
結論から言うと、「ことごとく(=全部・残らず)」という副詞として使う限り、「悉く」と「尽く」は意味も使い方もほぼ同じです。つまり、文章の内容としてはどちらでも成立します。
ただし、迷いが生まれるポイントは「意味」ではなく、次の2つです。
- 表記の性質:一般的に「悉」は常用漢字ではないため、媒体や相手によっては「尽く」やひらがなの「ことごとく」の方が読みやすい
- 同じ漢字の別用法:「尽く」は「つくす(尽くす)」や「つく(尽きる)」でも使われるため、文脈次第で誤読・誤解が起こる
- 「ことごとく」の意味で使うなら、悉く=尽く(差はほぼない)
- 迷う原因は「表記」と「尽くの別読み(つくす/つく)」
悉くと尽くの使い分けの違い
使い分けは、基本的に「意味」ではなく「読み手への配慮」で決めるのが安全です。
たとえば、ビジネスメールや社外向け資料で「悉く」を多用すると、相手によっては「読めない」「硬すぎる」と感じる場合があります。こういう時は、「尽く」または「ことごとく(ひらがな)」が無難です。
一方で、評論・小説・少し格調を出した文章では「悉く」を使うと、語感として引き締まります。つまり、選び方は次のイメージです。
- 読みやすさ重視:ことごとく/尽く
- 硬め・文語寄り:悉く
- 「尽く」は「ことごとく」以外に「つくす」「つく」とも読めるため、文脈が弱いと誤読されやすい
- 公的・公式な文書では、読みやすさの観点で「ひらがな表記」が選ばれることも多い
表記で迷うときは、同じサイト内の「表記(ひらがな/漢字)で意味は同じでも場面が変わる」系の記事も参考になります。たとえば、「既に」と「すでに」の違いや、「さまざま」と「様々」の違いは、考え方がかなり近いです。
悉くと尽くの英語表現の違い
英語にするときも、実は「悉く」と「尽く」を分けて訳すというより、文脈に合わせて「全部」「例外なく」をどう表すかが中心になります。
- all:全体として全部(例:all the plans)
- every:一つ一つ漏れなく(例:every attempt)
- entirely:完全に(程度の強調)
- without exception:例外なく
「悉く失敗した」「尽く却下された」のように、連続して起こる感じを出したい時は、one after another(次々に)で雰囲気が近づきます。
悉くの意味
ここからは「悉く」単体の理解を深めます。「ことごとく」としての意味・使う場面・語源・類義語と対義語をまとめて押さえると、文章での迷いが減ります。
悉くとは?意味や定義
「悉く(ことごとく)」は、副詞として「問題にしているもの全部」「残らず」「すべて」を表します。対象が一部ではなく、範囲がまるごとであることを強調したい時に使います。
ポイントは、「数量的に100%」を断言したい時だけでなく、「例外がない印象」を強く出す語感にもあります。たとえば「悉くが珍しい」「悉くが初めて」のように、体験や印象をまとめて言い切る時に相性が良いです。
悉くはどんな時に使用する?
「悉く」は、少し文語的で硬い響きがあるため、日常会話よりも文章で見かけることが多い表記です。たとえば、次のような場面で自然に使えます。
- 文章の格調を上げたい(エッセイ、評論、レポートなど)
- 「残らず」「例外なく」を強く言い切りたい
- 古風な語感を演出したい(小説、スピーチ原稿など)
- 読み手が一般層の場合は「尽く」や「ことごとく」に寄せると親切
- 正確な情報は公式サイトをご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
悉くの語源は?
「ことごとく」は、もともと「事(こと)」を重ねた「事事(ことごと)」に由来すると言われます。そこに副詞化する形がついて、現在の「ことごとく」という形になった、という捉え方が一般的です。
漢字表記としての「悉く」は、「悉」という字が持つ「残らず」「全部」といった意味合いに寄せた当て字的な側面もあり、表記にすると“全部感”が見えやすいのが特徴です。
悉くの類義語と対義語は?
「悉く」は「全部・残らず」を示すので、類義語は豊富です。一方で、対義語は一語でぴったり決まるものが少なく、文脈で作るのが基本になります。
悉くの類義語(言い換え)
- すべて
- 全部
- 残らず
- ことごとく(ひらがな表記)
- 一切
- 余すところなく
悉くの対義語(反対の方向)
- 一部
- 部分的に
- ところどころ
- まばらに
- 例外がある
尽くの意味
「尽く」は「ことごとく」の表記としても、「つくす」「つく」としても使われる、意味の幅が広い語です。ここを整理すると、誤用や誤読がぐっと減ります。
尽くとは何か?
「尽く」には大きく分けて3つの顔があります。
- ことごとく(副詞):全部・残らず(=悉くと同じ領域)
- つくす(動詞:尽くす):力や手段を出し切る、努める(例:力を尽くす)
- つく(動詞:尽く):尽きる、なくなる(例:資金が尽く)
「悉く」との比較で問題になるのは、1つ目の「ことごとく」です。2つ目・3つ目は「悉く」では代用できません。ここが混ざると、文章が一気に不自然になります。
尽くを使うシチュエーションは?
「尽く」を「ことごとく」の意味で使うなら、日常会話よりも文章で見かけますが、「悉く」よりは一般に読みやすい印象があります。
また、「尽くす(つくす)」としてはビジネスでも頻出です。「顧客のために力を尽くす」「改善に尽くす」のように、努力や貢献を述べる場面で定番の言い回しになります。
- 「ことごとく」=尽く(副詞)は、文章で使いやすい表記
- 努力・貢献の文脈なら「尽くす(つくす)」が本命
尽くの言葉の由来は?
「尽」は「尽きる」「尽くす」の通り、限りまで出し切る/なくなるという方向の意味を核に持つ漢字です。そこから転じて、「すっかり」「ことごとく」という用法も生まれています。
表記としては常用漢字で、目にする機会が多いのも特徴です。そのため「悉く」と迷ったとき、読み手への配慮を優先するなら「尽く」に寄せる判断はかなり合理的です。
尽くの類語・同義語や対義語
「尽く(ことごとく)」としての類語・対義語は、基本的に「悉く」と同じです。ただし、「尽くす」「尽く(つく)」の意味で使う場合は、言い換えが別物になります。
尽く(ことごとく)の類語
- すべて
- 全部
- 残らず
- 一切
- 漏れなく
尽く(ことごとく)の対義語
- 一部
- 部分的に
- 例外的に
尽くす(つくす)の言い換え
- 全力を注ぐ
- 力を出し切る
- 最善を尽くす
- 尽力する
悉くの正しい使い方を詳しく
ここでは「悉く(ことごとく)」を、例文とともに定着させます。ニュアンスは強めなので、断言の強さと文脈の整合性がポイントです。
悉くの例文5選
- 山道では、目に入る景色が悉く新鮮で、時間を忘れた
- 提出した修正案は悉く差し戻され、論点を整理し直すことになった
- 期待していた施策が悉く空振りし、前提から見直す必要が出てきた
- 観測データは悉く同じ傾向を示しており、偶然とは考えにくい
- 旅先で出会った人が悉く親切で、安心して過ごせた
悉くの言い換え可能なフレーズ
「悉く」は便利ですが、強い断言に見えることもあるため、場面によっては言い換えた方が角が立ちません。
- ほぼすべて(100%断言を避けたい時)
- 大半が(統計的に厳密でない時)
- 残らず(少し口語寄りにしたい時)
- 例外なく(説明的にしたい時)
悉くの正しい使い方のポイント
「悉く」は、“例外がない”という印象を与える語です。だからこそ、次のポイントを押さえると文章がきれいに決まります。
- 「悉く+結果・状態」に寄せる(悉く却下、悉く失敗、悉く同じ傾向 など)
- 「本当に例外がないのか」を一度だけ自問する(誇張に見えるのを防ぐ)
- 読み手が広い場合は「ことごとく」表記も検討する
悉くの間違いやすい表現
よくあるのは、努力・行為の文脈で「悉く」を使ってしまうパターンです。たとえば「努力を悉くする」は、意味としては通じそうに見えても不自然です。ここは「尽くす(つくす)」の出番になります。
- × 努力を悉くする → ○ 努力を尽くす(つくす)
- × 対応を悉くした → ○ 対応を尽くした/最大限対応した
尽くを正しく使うために
「尽く」は便利な一方で、読み方が複数あるため、文章での事故が起きやすい語です。「ことごとく」「つくす」「つく」のどれなのかを意識するだけで、精度が上がります。
尽くの例文5選
- 応募したチケットは尽く落選し、別案を考えることにした
- 新しい提案は尽く否決され、根拠を補強する必要がある
- 資金が尽く前に、優先順位を付けて手を打とう
- チームは最善を尽くしたが、結果には届かなかった
- 顧客満足のために力を尽くす姿勢が、信頼につながる
尽くを言い換えてみると
「尽く」は意味が広いので、言い換えは「どの読みで使っているか」で変わります。
尽く(ことごとく)の言い換え
- すべて
- 残らず
- 例外なく
- 全部
尽くす(つくす)の言い換え
- 全力を注ぐ
- 力を出し切る
- 最善を尽くす
- 尽力する
尽く(つく=尽きる)の言い換え
- 尽きる
- 底をつく
- なくなる
尽くを正しく使う方法
私が文章チェックで必ず見るのは、「尽く」の直後に来る語です。ここで意味がほぼ決まります。
- 尽く+否定・結果語(落ちる/却下/失敗/防がれる)→「ことごとく」
- 尽くす+対象(力/手/心/誠意)→「つくす」
- 尽く+前(資金が尽く前に)→「つく(尽きる)」
迷うときは、読みやすさ優先で「ことごとく」「尽きる」「尽くす」と書き分けてしまうのが、最も事故が少ない選択です。
尽くの間違った使い方
誤りで多いのは、「ことごとく」と「つくす」を混ぜてしまうパターンです。「尽く」は便利なぶん、頭の中で意味がズレたまま変換してしまうんですね。
- × 対応を尽く(ことごとく)した → ○ 対応を尽くした(つくす)
- × 予算を尽く(ことごとく) → ○ 予算が尽きる/予算を使い切る
- × 尽く努力した → ○ 努力を尽くした/努力した(どちらかに統一)
まとめ:悉くと尽くの違いと意味・使い方の例文
「悉く」と「尽く」は、「ことごとく(全部・残らず)」という意味で使う限り、意味も使い方もほぼ同じです。違いとして意識したいのは、表記の読みやすさと、「尽く」が別読み(つくす/つく)を持つ点でした。
読み手が広い文章では「尽く」や「ことごとく」を選ぶと親切で、格調を出したい文章では「悉く」も選択肢になります。例文の型(悉く却下、尽く落選、力を尽くす、資金が尽きる)を押さえておくと、誤用はかなり防げます。
最後に、表記で迷ったら「読み手に最も伝わる形にする」のが正解です。言葉は正しさだけでなく、伝わりやすさで選ぶと文章全体の質が上がります。

