
「全館」と「全室」という言葉、なんとなく意味が伝わるものの「どちらを使うか迷う」「違いが曖昧」などと感じる方も多いでしょう。本記事では、「全館」と「全室」の違いを結論から先に示すと、「全館」は建物全体・建物内すべての部分を指し、「全室」は建物内のすべての「部屋(室)」を指す言葉、という使い分けが基本です。本稿では、両者の意味・使い方を深堀し、例文・英語表現まで網羅して解説します。
目次
「全館」と「全室」の基本概念
全館とは何か?
「全館(ぜんかん)」とは、ある建物・施設・館など、構造上ひとつの「館(建物)」として扱われるもの全体を指す言葉です。言い換えれば、建物のすべての部分(部屋、廊下、ロビー、階段、付帯施設などを含む)を含んだ概念です。
特に公共施設、ホテル、劇場、博物館などに対して「館」という語を使うことが多いため、「全館」という言葉が使われる文脈では、建物全体—施設の敷地内・構造体区域内すべて、を含めた総括的な意味合いが込められることが多いです。
建築・施設運営分野においては、たとえば「全館空調(建物全体を一括して空調管理する方式)」という語が定着しており、居室だけでなく廊下・ロビーなど建物の全ての空間を含める意味で用いられます。
全室とは何か?
一方、「全室(ぜんしつ)」は、「建物の中のすべての“部屋(室)”」を指す語です。ここでいう「室」は、居室・客室・寝室・応接室など、人が居住・利用する部屋を指すことが多く、廊下・ロビー・階段室などは必ずしも「室」に含まれないことがあります。
宿泊施設や集合住宅、賃貸物件などでは、「すべての客室」「すべての居室」という意味で「全室」という表現がよく使われます。たとえば「全室禁煙」や「全室Wi-Fi対応」などが典型的なコロケーションです。
つまり、「全室」は建物内の“部屋”の範囲に限定した言葉であり、建物全体という広さを示す言葉ではありません。
「全館」と「全室」の違いと使い方
「全館」と「全室」の違い
両者の違いを端的に整理すると、次のようになります。
対象範囲 | よく使われる場面・例 | |
---|---|---|
全館 | 建物のすべての部分(部屋・廊下・共用空間・付帯設備などを含む) | 施設全体(ホテル、劇場、博物館など)、全館空調、全館貸切 |
全室 | 建物の中のすべての“部屋(室)” | ホテルの客室、賃貸物件、宿泊プラン、客室数表示 |
このように、「全館」は建物そのものを包含する広い概念、「全室」はその内部の“部屋”を指すやや狭い概念、という構造的な違いがあります。使い方としては、施設運営や設備管理の文脈では「全館」が用いられやすく、宿泊や部屋の仕様説明などでは「全室」が使われることが多いです。
「全館」の使い方と例文
「全館」を使う場面として、たとえば次のような表現があります。
- 全館空調(建物全体を対象とした空調システム)
- 全館貸切(施設全体を貸切ること)
- 全館禁煙(建物の全エリアが禁煙)
- 全館改装(建物全体を改修・リニューアル)
- 全館巡回清掃(すべてのエリアを対象に清掃を行う)
以下に例文を挙げます。
- このホテルでは 全館禁煙 となっておりますので、喫煙は外の指定場所でお願いします。
- 現在、全館改装中 のため、ご宿泊は別館をご案内しています。
- 私どもは 全館貸切 のプランもご提供しておりますので、パーティーや団体利用に便利です。
- 火災報知器は 全館 に設置され、非常ベルがすべての階で連動します。
- 全館空調 システムにより、ロビーから客室まで快適な温度が保たれています。
「全室」の使い方と例文
「全室」は、部屋・客室を対象とする表現で幅広く使われます。以下のような場面が典型的です。
- 全室禁煙(客室すべて禁煙)
- 全室Wi-Fi完備
- 全室シングル/ダブル仕様
- 全室オーシャンビュー(景観指定)
- 全室満室(部屋がすべて埋まっている状態)
例文を示します。
- 当ホテルは 全室禁煙 となっておりますので、ご了承ください。
- 全室Wi-Fi完備 なので、出張や観光でインターネット環境に困りません。
- 全室オーシャンビュー の部屋を改装しましたので、海をご覧いただけます。
- 残念ながら、本日は 全室満室 でご案内できる部屋がございません。
- 全室シングル仕様 のビジネスホテルですが、ゆったりしたベッドを採用しています。
「全館」と「全室」の類語・同意語
「全館」の類語・同意語
「全館」に近い語としては、次のような表現が挙げられます。
- 施設全体(しせつぜんたい)
- 建物全体(たてものぜんたい)
- 館内すべて(かんないすべて)
- 全域(ぜんいき)※事業・施設の文脈で使われることがある
- 全面(ぜんめん)※比喩・抽象的意味でも用いられることあり
これらの語を使うことで、「全館」の語感を変えて言い換えることができます。ただし、厳密には「館(建物)を対象にしている」というニュアンスが薄れる可能性もありますので、文脈に応じて使い分けを意識すべきです。
「全室」の類語・同意語
「全室」に対応する語には、主に以下があります。
- すべての部屋(すべてのへや)
- 客室すべて(きゃくしつすべて)
- 各室(かくしつ)※少し改まった表現
- 全客室(ぜんきゃくしつ)
- 全ルーム(ぜんルーム)※和製英語的表現として使われることあり
たとえば「すべての部屋で無料Wi-Fi」や「各室に加湿器を設置」は、「全室無料Wi-Fi」「各室加湿器設置」といった言い方に言い換え可能です。
「全館」と「全室」の英語表現
「全館」の英語例文
「全館」を英語で表現する際は、次のような語を使うことが多いです。
- entire building
- the whole building
- throughout the building
- entire facility
- throughout the entire premises
以下、例文を挙げます。
- The entire building is non-smoking.(全館禁煙です。)
- We offer throughout the building free Wi-Fi access.(建物内すべてで無料Wi-Fiを提供しています。)
- The whole facility has barrier-free access.(施設全体がバリアフリー対応です。)
- The hotel underwent a renovation of the entire building last year.(このホテルは昨年、全館を改装しました。)
- The heating and cooling are controlled throughout the building with a central system.(暖房・冷房は全館一括で制御されています。)
「全室」の英語例文
「全室」に対応する英語表現は、次のようなものが一般的です。
- all rooms
- every room
- in all rooms
- all guest rooms
- every guest room
こちらも例文を示します。
- All rooms are non-smoking.(全室禁煙です。)
- We offer free Wi-Fi in all rooms.(全室で無料Wi-Fiを提供しています。)
- Every room has a view of the ocean.(全室オーシャンビューです。)
- We regret that every room is fully booked tonight.(残念ながら本日は全室満室です。)
- All guest rooms come with a private bathroom.(すべての客室に専用バスルームが付いています。)
まとめ:「全館」と「全室」の違い|意味・使い方・例文・英語
本記事では、「全館」と「全室」の違いを中心に、意味・使い方・例文・英語表現まで詳しく解説しました。
基本的には、
- 「全館」=建物のすべて(部屋・共用空間・設備などを含めた全体)を指す語
- 「全室」=建物内のすべての“部屋(室)”を指す語
実際の利用場面においては、ホテル・宿泊施設・施設全体・改装・設備管理などでは「全館」が使われやすく、部屋仕様・客室案内・満室・部屋設備などでは「全室」が使われやすいという性質があります。
英語表現としては、“entire building / throughout the building” が「全館」に相当し、“all rooms / every room / all guest rooms” が「全室」に相当します。