通信社の役割とは?共同通信と時事通信の違いや電通との関係も解説
通信社の役割とは?共同通信と時事通信の違いや電通との関係も解説

共同通信と時事通信にはどのような違いがあるのでしょうか?

その答えは、運営形態・収益構造・報道の得意分野・サービスの対象に明確な差があることです。共同通信は非営利の社団法人として地方紙などの加盟メディアに安定したニュース供給を行う一方、時事通信は株式会社として経済・金融分野に強みを持ち、一般向けにも情報を発信しています。

この記事では、通信社の役割を基本から解説しながら、共同通信と時事通信の違いを分かりやすく整理し、両社の歴史的背景やビジネスモデル、電通との関係、さらには報道の偏向性に関わる要素までを丁寧に紹介します。

この記事でわかること
  1. 共同通信と時事通信の運営形態や収益構造の違い
  2. 両社が得意とする報道分野と配信対象の違い
  3. 通信社と新聞社の役割や情報流通の構造
  4. 通信社と広告代理店・電通との歴史的な関係

通信社とは?情報流通の要となる「紙面を持たない新聞社」

通信社とは?情報流通の要となる「紙面を持たない新聞社」

通信社の定義と基本的な役割

通信社は、国内外の様々な出来事を取材・収集し、新聞社やテレビ局などの報道機関に記事やニュース素材を提供する組織です。言わば「紙面を持たない新聞社」として機能しており、一般の人々に直接情報を届けるのではなく、他のメディアを通じて間接的に情報を届ける役割を担っています。

通信社が存在する最大の理由は効率性にあります。全国や世界中の出来事をすべての新聞社やテレビ局が独自に取材するのは物理的にも経済的にも不可能です。そこで、取材機能や経費を分担するシステムとして通信社が発達したのです。特に地方紙や小規模メディアにとって、通信社からのニュース配信は不可欠な情報源となっています。

通信社の主な機能と特性

通信社の主な機能は以下の3つに集約できます。

  1. 情報の収集・取材:国内外に広範なネットワークを持ち、様々な出来事を取材
  2. 情報の編集・配信:取材した情報を記事化し、契約メディアに迅速に配信
  3. 専門情報の提供:政治、経済、スポーツなど専門分野の詳細な情報提供

通信社の大きな特徴は「速報性」にあります。新聞社が朝刊・夕刊という締切時間に合わせた報道を行うのに対し、通信社はニュースが発生した時点でリアルタイムに配信することが可能です。

また、通信社は運営形態によって大きく3つに分類されます。

  • 営利を目的とした会社法人(例:時事通信社)
  • 非営利の協同組合(例:共同通信社、AP通信)
  • 国家機関的な半国営企業(例:新華社)

このような特性から、通信社はメディアの中のメディア、「メディアの中枢」としての役割を果たしているのです。

日本の2大通信社:共同通信社の特徴と役割

日本の2大通信社:共同通信社の特徴と役割

共同通信社の設立と運営体制

共同通信社は1945年、第二次世界大戦後に同盟通信社が分割されて誕生しました。組織としては、一般社団法人共同通信社とその子会社である株式会社共同通信社などから構成されています。

運営面での最大の特徴は、全国の地方紙やNHKなど多数の媒体が加盟する「組合型」の体制です。加盟社から定期的・継続的な収入を得る形態により、経営が比較的安定しているとされています。この組合型の運営形態により、政治的・経済的に特定の勢力に左右されにくい独立した報道が可能になっているという側面があります。

共同通信社の主なサービスとその特徴

共同通信社は幅広いサービスを提供していますが、主なものとしては以下が挙げられます。

  • 多様な形式のニュース配信:国内外の速報ニュース、深掘り記事、専門(医療・法律)ニュースなど
  • マルチメディア対応:テキストのみならず、写真、動画、音声など様々な形式でのコンテンツ提供
  • 多言語展開:日本語だけでなく英語や中国語でのニュース配信
  • 特化型サービス:行政情報、海外リスク情報、投資情報など専門分野に特化したサービス

特に政治、社会、国際ニュースの分野に強みを持ち、国内の報道機関に広く情報を提供することで、日本の報道全体に大きな影響力を及ぼしています。

時事通信社の特徴と共同通信社との違い

時事通信社の特徴と共同通信社との違い

時事通信社の設立と基本情報

時事通信社も共同通信社と同じく1945年、同盟通信社の分割により誕生しました。しかし、時事通信社は株式会社という営利企業の形態をとり、主に経済ニュースと出版事業を中心に展開してきた点が大きな特徴です。

時事通信社は国内外の政治、経済、国際情勢、社会問題などを幅広くカバーしながらも、特に経済・金融分野に力を入れてサービスを展開しています。一般向けのニュースサイト「時事ドットコム」では、政治、経済、社会、国際、スポーツなど幅広い情報を提供しています。

共同通信社と時事通信社の明確な違い

両社の主な違いは以下の点に集約できます。

  1. 運営形態の違い:共同通信社は組合型(社団法人)、時事通信社は営利企業(株式会社)
  2. 収益構造の違い:共同通信社は加盟社からの安定収入が基盤、時事通信社は経済情報などの専門サービス収入が中心
  3. 主力分野の違い:共同通信社は政治・社会・国際、時事通信社は経済・金融分野が強み
  4. サービス対象の違い:共同通信社は主に加盟メディア向け、時事通信社は一般人も含む幅広い顧客層

このような違いにより、共同通信社が加盟社との連携で安定した経営基盤を持つ一方、時事通信社は経済分野での専門性を強みとしながらも、日本経済新聞系のQUICKやロイター、ブルームバーグなど外資系との競争により経営面での苦戦も見られると指摘されています。

電通と通信社の意外な歴史的関係

電通と通信社の意外な歴史的関係

電通の創業と通信社事業の始まり

意外に思われるかもしれませんが、現在の広告大手「電通」は、もともと通信社事業から発展した企業です。1901年に光永星郎が日本広告株式会社を設立し、その4か月後に「電報通信社」を併設したのが始まりでした。

1906年には電報通信社を改組して株式会社日本電報通信社を設立し、翌1907年には日本電報通信社が日本広告株式会社を合併することで、通信と広告を併営する企業となりました。社名の「電通」は「電報通信社」の略称から来ています。

通信部門の分離と広告専業化への道

電通が通信と広告を併営する体制は1936年まで続きました。この年に「電聯合併」と呼ばれる業界再編が行われ、電通は通信部門を同盟通信社に移譲。広告を中心とした事業を展開しつつ多角的な事業も行っています。

戦後、同盟通信社が解体されて共同通信社と時事通信社に分割されたという経緯から、現在の電通と日本の二大通信社には「いとこ」のような関係があると言えるでしょう。実際、共同通信社は電通株の7.29%、時事通信社は同3.47%を保有し、それぞれ2位と4位の大株主となっています(2025年3月31日 dentsu-IR資料より)。

この歴史的経緯から見ると、日本のメディア構造において、通信社と広告代理店は元々密接なつながりを持っていたことが分かります。現在は分離されていますが、メディア業界全体を理解する上では重要な歴史的背景と言えるでしょう。

通信社と新聞社の決定的な違い

通信社と新聞社の決定的な違い

ビジネスモデルと情報の流れの違い

通信社と新聞社の最も基本的な違いは「自社媒体の有無」です。新聞社は自社の発行する新聞という媒体を持ち、そこに記事を掲載して直接読者に情報を届けます。一方、通信社は自社の媒体を持たず、新聞社やテレビ局などの報道機関に記事を配信するのが基本的な役割です。

情報の流れという観点では、通信社は「卸売り」、新聞社は「小売り」に例えることができます。通信社が取材・編集した記事は、いったん新聞社などに「卸売り」され、そこからさらに読者に「小売り」される仕組みになっています。

取材対象と読者との関係性の違い

新聞社は自社のエリアや読者層に合わせた記事選択と編集方針を持ちます。例えば地方紙は地域に密着したニュースを重視し、専門紙は特定分野に特化した報道を行います。つまり、明確な「読者像」を想定した報道活動を行っているのです。

対して通信社は不特定多数のメディアに情報を提供するため、より広範で中立的な視点からの報道を基本とします。特に海外や首都圏などに取材機能を持たない地方新聞社にとっては、通信社からのニュース供給が不可欠となっています。

この構造により、全国の地方紙が同じ通信社の記事を使用することで、地域によって異なる新聞であっても全国ニュースなどの部分では同一または類似した内容が掲載されるという状況が生まれています。

なぜ偏向的な報道がされるのか

なぜ偏向的な報道がされるのか

メディアバイアスが生じる複合的な要因

報道において偏りが生じる原因は複数ありますが、主な要因として以下が挙げられます。

  1. 実務的制約:すべての事実を報道することは物理的に不可能であり、選択された事実を一貫した物語にまとめる必要があるため、必然的に一部の情報が強調または省略されます。
  2. 記者個人の認知バイアス:記者自身の信念や先入観、動機などが取材や執筆に影響を与えます。確認バイアス(自分の考えを支持する情報を重視する傾向)などの心理的要因も関わっています。
  3. 組織的要因:メディア組織内の編集方針や報道価値観、ニュース選択のプロセスなどが一定の偏りを生み出します。
  4. 経済的要因:広告主や企業オーナーの影響、メディア所有権の集中、市場競争などが、特定の視点に偏った報道を促す可能性があります。
  5. 情報の「商品化」:ニュースは「商品」として売られるものであり、視聴者・読者の関心を引くために、より刺激的、感情的な内容が選ばれやすくなります。

通信社の報道における偏向性の問題

通信社は多くのメディアの情報源となるため、仮に通信社の報道に偏りがあれば、それは多数のメディアに連鎖的に伝播する可能性があります。特に、地方紙など独自の取材網が限られたメディアは通信社からの配信に頼る傾向が強いため、この影響は無視できません。

また、通信社自体の運営形態によっても偏向の度合いは変わります。例えば中国の新華社のような国営通信社の場合、政府のプロパガンダ機能を果たすこともあります。一方、組合型の通信社は相対的に中立性が高いと言われていますが、完全に偏りがないとは言えません。

世界の主要通信社と特徴

世界の主要通信社と特徴

ロイター通信(イギリス)

ロイターは1851年にポール・ジュリアス・ロイターによってイギリスで設立された通信社です。当初は海底ケーブルを利用してパリとロンドンの金融情報を配信していましたが、国際的なネットワークを拡大し、世界最大級の通信社へと成長しました。

特徴としては金融情報サービスへの比重が大きく、2007年にカナダの大手情報サービス企業トムソンに買収され、現在はトムソン・ロイターとして運営されています。「正確かつ迅速」なニュース配信で高い信頼を得ており、世界中の報道機関に情報を提供しています。

AP通信(アメリカ)

AP通信は1846年に設立されたアメリカの非営利通信社で、法人格を持たない協同組合として運営されています。「事実そのもの」を伝える「逆ピラミッド」型の報道スタイルを特徴とし、ニュースレポートは英語、スペイン語、アラビア語など複数の言語で配信されています。

世界121カ国以上にスタッフを配置し、243の支局を持ち、約5,000のテレビ・ラジオ局、約1,700の新聞社がAPの記事を使用しています。アメリカ国内で広範囲に展開する主要な通信社の一つです。

AFP(フランス通信社)

AFPは1835年に設立された、世界最古の報道機関の一つです。当初はアヴァス通信として設立され、1944年にパリ解放後にAFP通信として再出発しました。

フランスの法律によって独立性が保証されており、政治、経済、思想などのあらゆる影響から独立した中立公正の報道姿勢を特徴としています。世界160カ国以上に支局を展開し、ニュースは公式に6カ国語(フランス語、英語、アラビア語、スペイン語、ドイツ語、ポルトガル語)で配信されています。

新華社(中国)

新華社は1931年に紅色中華通訊社として設立され、1937年に現在の名称になった中国の国営通信社です。中国政府の国務院直属の機関として位置づけられており、中国共産党中央宣伝部の影響を受けながら、政府の公式見解を国内外に伝える役割を担っています。

2006年には中国国内で外国通信社による記事配信に制限を設け、新華社系の代理店を通すよう義務付けるなど、情報統制にも関与しています。このように国家の広報機関としての性格が強く、報道の独立性という面では西側の主要通信社とは大きく異なります。

通信社の役割や共同通信と時事通信の違いがわかる|要点まとめ

この記事全体の要点を以下にまとめます

  • 共同通信は非営利の社団法人で、加盟社による組合型運営
  • 時事通信は営利目的の株式会社として運営されている
  • 共同通信は地方紙やNHKなど多数の加盟メディア向けに配信
  • 時事通信は一般向けの情報提供や経済情報に特化している
  • 共同通信は政治・社会・国際ニュースに強みを持つ
  • 時事通信は経済・金融分野に重点を置いている
  • 共同通信は安定した収益構造で経営が安定している
  • 時事通信は専門サービスや出版などで収益を確保している
  • 共同通信はニュース速報のほか、写真や動画もマルチメディアで提供
  • 時事通信は「時事ドットコム」など一般向けサイトを運営
  • 両社とも戦後、同盟通信社の分割によって誕生した
  • 共同通信は政治的独立性が比較的高いとされている
  • 時事通信はQUICKやブルームバーグなどと競合している
  • 両社とも電通との歴史的なつながりがある
  • 通信社は新聞社に比べて情報の「卸売り」的役割を担っている