
「家族を養う」「英気を養う」「感性を養う」など、養うという言葉は日常生活から仕事、教育の場面まで幅広く使われています。しかし、何かを育てることなのか、生活を支えることなのか、文脈によって意味が変わるため、正確な説明は意外と難しいものです。
また、「育てる」「培う」「育む」といった似た言葉との違いが分からず、文章を書くときに迷う方も多いのではないでしょうか。養うは、対象の生命や生活を支える場合と、能力や心の働きを少しずつ高める場合に使える言葉です。
この記事では、養うの基本的な意味をはじめ、家族を養う、英気を養う、感性を養うといった代表的な使い方を、具体的な例文とともに整理します。
類語との使い分けや英語表現、間違えやすい言い回しまで確認できるので、読み終える頃には、場面に合った自然な表現を選べるようになります。
養う
英語表記:support / provide for / nourish / cultivate / develop / foster
養うの意味とは?読み方と基本的なニュアンス

まずは、養うという言葉が持つ中心的な意味を整理しましょう。複数の意味があるように見えますが、いずれにも「必要なものを与えながら、良い状態を保つ」という共通点があります。
養うの意味は「生活を支える」「力を育てる」
養うとは、食べ物や生活費などを与えて生活を支えたり、能力・体力・精神などを少しずつ育てたりすることです。
「養」は、養育、扶養、休養、栄養、教養などにも使われる漢字です。人や動物の生命を支える意味だけでなく、体をいたわることや心を豊かにすることも表します。文化庁の常用漢字表では、「養」の訓読みとして「やしなう」が示されています。
- 食事や生活費を与え、人の生活を支える
- 子どもや動物などの世話をして育てる
- 体力や気力を保ち、回復させる
- 能力、感性、習慣、考え方などを育てる
これらを一言でまとめると、対象に必要なものを継続的に与え、内側から良い状態をつくるという意味になります。
養うの語源と漢字「養」が表すこと
「養」という漢字は、食物を勧めることを表し、そこから「食べさせる」「育てる」「世話をする」という意味へ広がったとされています。漢字そのものに、外から必要なものを与えて生命や状態を保つイメージが含まれているのです。
そのため、「養う」は単に大きく成長させるというより、成長や活動に必要な土台を整えることに重点があります。
たとえば「思考力を養う」は、思考力を一度に身につけるという意味ではありません。読書や対話、経験などを重ねながら、考える力を内側に蓄えていくことを表しています。
- 生活を養う:暮らしを成り立たせる
- 体を養う:健康や体力を保つ
- 心を養う:精神や人間性を豊かにする
- 能力を養う:経験を通して力を身につける
家族を養うと子どもを育てるの違い
「家族を養う」とは、主に収入を得て、家族が生活できるよう経済的に支えることです。食費、住居費、衣服代、教育費などを負担する意味が中心になります。
一方、「子どもを育てる」は、食事や生活費を与えることだけでなく、教育、しつけ、健康管理、精神的な支援など、成長に関わる行為全体を指します。
| 言葉 | 意味の重点 | 代表的な表現 |
|---|---|---|
| 養う | 生命や生活を維持するために必要なものを与える | 家族を養う、妻子を養う |
| 育てる | 対象を成長・発達させる | 子どもを育てる、人材を育てる |
「子どもを養う」という表現も間違いではありませんが、経済的・生活的な支援に焦点が当たりやすくなります。「子どもを育てる」と言えば、成長を見守り導く意味まで広く含まれます。
なお、日常語としての「家族を養う」と、法律上の「扶養」は完全に同じ概念ではありません。民法では、直系血族や兄弟姉妹などの扶養義務が定められていますが、具体的な範囲や内容は法的な判断を伴います。
養うの意味がわかる使い方と例文

養うは、目的語によって意味が変化します。「誰を養うのか」「何を養うのか」に注目すると、文中での意味を正確に判断できます。
家族を養う・子どもを養うの使い方
人を目的語にする場合は、その人が生活できるように支える意味になります。特に「家族を養う」「妻子を養う」は、働いて収入を得て、生活費を負担するという文脈で使われる表現です。
- 彼は家族を養うために、毎日懸命に働いている。
- 一人の収入で家族全員を養うのは簡単ではない。
- 両親に代わって、幼い弟妹を養うことになった。
- 安定した仕事に就き、将来は家庭を養いたい。
「養う人」は生活を支える側であり、「養われる人」は支援を受ける側です。ただし、家庭内の役割は収入だけで決まるものではないため、相手の立場を決めつけるような使い方には注意しましょう。
英気を養う・体力を養うの使い方
体力や気力を目的語にすると、休息や栄養によって力を蓄えたり、衰えないように保ったりする意味になります。
代表的な表現が「英気を養う」です。これは、休養を取って心身の活力を回復させ、次の活動に備えることを表します。
- 長期休暇を利用して英気を養う。
- 大切な試合に備え、十分な睡眠を取って体力を養った。
- 温泉でゆっくり過ごし、心身を養う。
- 栄養のある食事を取り、病後の体を養う。
「英気」と「鋭気」は読み方が同じですが、一般的な慣用表現は「英気を養う」です。「鋭気」は鋭い気迫や勢いを表すため、「鋭気をくじく」のように使われます。詳しい違いは、英気と鋭気の意味・使い方の違いで整理しています。
また、「休養」は単に仕事を休むことではなく、心身の力を回復させることを目的としています。休む行為と休む目的の違いは、休養と休暇の意味・使い分けを読むと分かりやすいでしょう。
感性を養う・思考力を養う・能力を養うの使い方
目に見えない能力や性質を目的語にすると、経験や学習を積み重ねながら、その力を身につけるという意味になります。
- 美しい音楽や絵画に触れて感性を養う。
- 日頃から本を読み、自分で考える力を養う。
- さまざまな人と話すことで、コミュニケーション能力を養う。
- 失敗を振り返る習慣が、判断力を養ってくれる。
- 地域活動への参加を通して、協調性を養う。
文部科学省の学習指導要領でも、「豊かな情操を養う」のように、教育を通して心や態度を豊かにする表現が使われています。この場合の養うは、知識を覚えるだけではなく、長期的な経験によって内面的な性質を形成する意味です。
- 感性・情操・人間性
- 思考力・判断力・想像力
- 体力・気力・英気
- 習慣・態度・責任感
- 信頼関係・協調性
養うを使った例文一覧
養うの意味を見分けるときは、目的語を別の言葉に置き換えてみると理解しやすくなります。
| 例文 | 文中での意味 |
|---|---|
| 収入を得て家族を養う。 | 生活を経済的に支える |
| 休暇を取って英気を養う。 | 気力や活力を回復させる |
| 運動によって基礎体力を養う。 | 身体的な力を高める |
| 読書を通して想像力を養う。 | 能力を少しずつ育てる |
| 芸術に触れて豊かな感性を養う。 | 心の働きや感じ方を豊かにする |
| 対話によって互いの信頼を養う。 | 関係や気持ちを時間をかけて形成する |
養うの意味と類語・言い換えの違い

養うには、「育てる」「培う」「育む」「扶養する」などの類語があります。ただし、完全に同じ意味ではなく、何をどのように成長させるのかによって適切な言葉が変わります。
養うと育てるの違い
養うは維持や土台づくり、育てるは成長や発達に重点を置く言葉です。
「家族を養う」は、家族の生活が成り立つように支えることです。「家族を育てる」とすると、家族そのものを成長させるような意味に聞こえ、通常は不自然です。
反対に、「新人を育てる」は、知識や技能を身につけさせて成長を助けることです。「新人を養う」とすると、生活費を負担しているような意味に受け取られる可能性があります。
- 生活を支えるなら「養う」
- 人や組織を成長させるなら「育てる」
- 体力や感性など内側の力には、どちらも使える場合がある
養うと培うの違い
「培う」は、経験や努力を重ねて能力、知識、信頼などを築き上げることです。もともとは植物の根元に土を置き、育てることを表す言葉でした。
養うと培うは、能力や精神を育てる場面ではよく似ています。ただし、養うには生活を支えたり、体力を回復させたりする意味があるのに対し、培うにはその意味がありません。
| 表現 | 自然さ | 理由 |
|---|---|---|
| 家族を養う | 自然 | 生活を支える意味 |
| 家族を培う | 不自然 | 培うは生活の扶助には使わない |
| 思考力を養う | 自然 | 考える力を身につける意味 |
| 思考力を培う | 自然 | 経験によって力を築く意味 |
| 英気を養う | 自然 | 活力を回復させる意味 |
| 英気を培う | 不自然 | 回復を表す慣用的な用法がない |
回復や維持を表すなら養う、経験による蓄積を強調するなら培うと覚えると使い分けやすくなります。
養うと育む・養成する・扶養するの違い
「育む」は、愛情を注ぎながら大切に育てることです。「親子の絆を育む」「夢を育む」のように、温かさや思いやりを含む表現に向いています。
「養成する」は、必要な知識や技能を身につけさせ、一定の役割を担える人材に育てることです。「専門家を養成する」「指導者を養成する」のように、明確な目標がある教育や訓練に使われます。
「扶養する」は、生活能力のない人や援助を必要とする親族などを経済的に支えることです。「養う」より硬く、制度や法律、税金、社会保険などの説明で多く使われます。
| 類語 | 主なニュアンス | 例 |
|---|---|---|
| 育てる | 成長させる | 子どもを育てる |
| 培う | 経験を重ねて築く | 実力を培う |
| 育む | 愛情を込めて大切に育てる | 友情を育む |
| 養成する | 目的に合う人材を訓練する | 技術者を養成する |
| 扶養する | 生活を経済的・制度的に支える | 親族を扶養する |
| 鍛える | 負荷や訓練によって強くする | 精神力を鍛える |
養うの対義語
養うには、すべての意味に共通する一つの対義語はありません。何を養うのかによって、反対の意味を表す言葉が変わります。
- 生活を養うの反対:見放す、扶助をやめる
- 体力を養うの反対:消耗する、衰弱させる
- 英気を養うの反対:疲弊する、気力を失う
- 能力を養うの反対:衰えさせる、退化させる
- 習慣を養うの反対:習慣を断つ、改める
対義語を選ぶときは、「養う」を機械的に反対語へ置き換えるのではなく、文中で何を保ち、何を育てているのかを確認することが大切です。
養うの意味を英語表現と注意点から理解する

養うは意味の幅が広いため、英語では一つの単語に固定できません。家族、身体、能力、関係など、養う対象に合わせて表現を選びます。
養うの英語はsupport・nourish・cultivate・foster
家族の生活を経済的に支える場合は、supportやprovide forが自然です。
- 家族を養う:support one’s family
- 子どもを養う:provide for one’s children
- 自分で自分を養う:support oneself
身体や精神に栄養を与える意味では、nourishを使います。能力や習慣を育てる場合は、developやcultivateが適しています。関係や態度を促進する場合は、fosterも使われます。英語でも、家族を支える表現と能力を育てる表現は区別されています。
| 日本語 | 英語表現 |
|---|---|
| 家族を養う | support one’s family |
| 生活費を与えて養う | provide for someone |
| 心や体を養う | nourish the mind or body |
| 思考力を養う | develop thinking skills |
| よい習慣を養う | cultivate good habits |
| 協調性を養う | foster cooperation |
養うことができる・養ってもらうの自然な表現
「養うことができる」は、自分の収入や能力によって、誰かの生活を支えられることを表します。
- この収入があれば、家族を十分に養うことができる。
- 農業だけで家族を養うことができる仕組みをつくりたい。
- 継続的な読書によって、論理的に考える力を養うことができる。
「養ってもらう」は、他人から生活費や食事などの提供を受けて暮らすことです。
- 学生時代は両親に養ってもらっていた。
- いつまでも家族に養ってもらうわけにはいかない。
- けがが治るまでは、親族に養ってもらうことになった。
- 「養ってもらう」は、経済的に依存している印象を与えることがある
- 相手との関係によっては「生活を支えてもらう」と言い換えると柔らかい
- 家事や介護など、金銭以外の貢献を軽く扱う表現にならないよう配慮する
養うのよくある誤用と注意点
養うは便利な言葉ですが、対象によっては「育てる」「培う」「身につける」のほうが自然です。
たとえば、一般的な日常会話では「花を養う」より「花を育てる」、「新人を養う」より「新人を育てる」とするほうが意味が明確です。
また、「鋭気を養う」は「英気を養う」との混同として扱われることがあります。活力を回復する意味なら「英気を養う」、鋭い気迫を弱める意味なら「鋭気をくじく」と覚えましょう。
| 迷いやすい表現 | 自然な表現 | 理由 |
|---|---|---|
| 鋭気を養う | 英気を養う | 休養して活力を蓄える慣用表現 |
| 新人を養う | 新人を育てる | 仕事上の成長を表すため |
| 専門家を養う | 専門家を養成する | 訓練して人材をつくる意味 |
| 経験を養う | 経験を積む | 経験そのものは通常「積む」と表す |
| 技術を養う | 技術を磨く・培う | 技能の向上を明確に表せる |
ただし、「判断力を養う」「基礎的な能力を養う」のように、経験を通じて内面的な力を形成する場合は自然です。目的語との組み合わせを見て判断しましょう。
養うの意味と使い方のまとめ
養うとは、人の生活を支えたり、体力・気力・能力・感性などを時間をかけて育てたりすることです。
- 読み方は「やしなう」
- 家族を養うは、生活を経済的に支えること
- 英気を養うは、休養して活力を回復させること
- 感性や思考力を養うは、経験によって内面的な力を育てること
- 育てるは成長、培うは経験の蓄積、育むは愛情を強調する
- 英語は対象に応じてsupport、nourish、develop、cultivateなどを使い分ける
養うを正しく使うポイントは、対象を維持するために支えるのか、内側にある力を育てるのかを考えることです。文脈に応じて「育てる」「培う」「育む」「扶養する」などと使い分ければ、意味が伝わりやすい自然な文章になります。
【参考文献】

