
この記事では、「踏襲と継承の違いや意味」を軸に、ビジネスメールや会議の資料、レポート作成などで混同しがちな二つの言葉を丁寧に整理していきます。「踏襲と継承の違いがわからない」「踏襲と継承はどんな場面で使い分ければよいのか」「踏襲や継承の語源や類義語・対義語、言い換えや英語表現、実際の使い方や例文までまとめて知りたい」と感じている方に向けて、私自身が日本語の指導や文章添削を行うなかで蓄積してきた知識を、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
踏襲と継承はいずれも「受け継ぐ」というイメージを持つ言葉ですが、実は「何を受け継ぐのか」というポイントで意味が大きく異なります。特に「前例踏襲」という言い回しや、「事業を継承する」「皇位継承」といった表現はニュースやビジネスシーンで頻出であり、曖昧なまま使ってしまうと、相手に違和感を与えたり、文章の説得力が弱くなってしまうこともあります。踏襲と継承の意味の違いや使い分けのコツを押さえておくと、文章全体の印象がぐっと引き締まり、日本語表現の精度も高まります。
この記事では、踏襲の意味や語源、踏襲の類義語と対義語、踏襲の言い換えや英語表現、さらに継承の意味と語源、継承の類語や英語表現まで整理しながら、ビジネス文書でそのまま使える具体的な例文を多数紹介していきます。読み終える頃には、「踏襲と継承の違いを自分の言葉で説明できる」「踏襲と継承の使い方や例文をすぐに思い出せる」という状態を目指していきましょう。
- 踏襲と継承の意味の違いと、基本的な使い分けのポイントを理解できる
- 踏襲と継承それぞれの語源・由来や、類義語・対義語・言い換え表現を整理できる
- 踏襲と継承の英語表現を把握し、ビジネス英語でも適切に言い換えられる
- 会話やビジネス文書でそのまま使える踏襲・継承の例文を身につけられる
踏襲と継承の違い
ここではまず、「踏襲」と「継承」という二つの言葉が持つ意味の違いを、できるだけシンプルに整理します。そのうえで、実際の使い分けのコツや、英語表現の違いまで順番に見ていきましょう。
結論:踏襲と継承の意味の違い
結論から言うと、踏襲と継承には次のような違いがあります。
| 語 | 基本的な意味 | 主な対象 | ニュアンス |
|---|---|---|---|
| 踏襲(とうしゅう) | 前例や従来のやり方・方針をそのまま受け継ぐこと | やり方、方法、方針、制度、企画の構成など | 前例に従う、変えずに引き継ぐという実務的なニュアンス |
| 継承(けいしょう) | 地位・財産・権利・伝統などを受け継ぐこと | 身分、地位、財産、権利、義務、文化・伝統など | 世代をまたいで引き継ぎ、守り続けるという重いニュアンス |
どちらも「受け継ぐ」行為を表しますが、踏襲は「やり方・方法」を引き継ぐ言葉、継承は「地位・財産・伝統」など具体的または社会的に重要なものを引き継ぐ言葉と整理すると、すっきり理解できます。
踏襲と継承の使い分けの違い
実務で迷いやすいのが「どちらを使えばいいのか」という使い分けです。一般的には、次のように考えると失敗しにくくなります。
- 企画・方針・手順・運用ルールなどの「やり方」をそのまま引き継ぐ → 踏襲する
- 事業・会社・家業・地位・肩書・財産・伝統文化などを引き継ぐ → 継承する
例えば、次のような組み合わせは自然です。
- 昨年度の営業戦略を踏襲する
- 従来の報告書フォーマットを踏襲する
- 家業の酒蔵を継承する
- 皇位を継承する
- 伝統芸能を継承する
「財産を踏襲する」「皇位を踏襲する」とは通常言わず、「継承する」と表現します。逆に、「マニュアルを継承する」「フローを継承する」という言い回しも不自然ではないものの、実務的な日本語としては「踏襲する」とした方がしっくり来る場面が多いと感じます。
日本語の細かなニュアンスに興味がある方は、「意味」と「意義」の使い分けを解説した記事も合わせて読むと、抽象度の高い言葉を整理する感覚がつかみやすくなります。「意味」と「意義」の違いや使い分けを解説した記事も、同じ発想で読んでみてください。
踏襲と継承の英語表現の違い
英語にするときも、「何を受け継ぐか」に着目すると表現を選びやすくなります。
踏襲の英語表現
踏襲は、次のような動詞で表現することが多いです。
- follow(方針・やり方に従う)
- carry over(前の年度や案を引き継ぐ)
- stick to(現状のやり方に固執するニュアンス)
- adhere to(規則や方針に忠実に従う)
例:
- We will follow last year’s marketing strategy.(昨年のマーケティング戦略を踏襲します)
- The new guideline basically carries over the previous one.(新しいガイドラインは、基本的に前のものを踏襲しています)
継承の英語表現
継承は、相続や地位の引き継ぎを表すため、次のような動詞をよく使います。
- inherit(財産・権利・性質などを継承する)
- succeed to(地位・王位などを継承する)
- take over(会社・事業・役職などを引き継ぐ)
- hand down / pass down(文化や伝統を受け継ぎ伝える)
例:
- He inherited his father’s business.(彼は父の事業を継承した)
- She will succeed to the throne.(彼女は王位を継承する)
- The festival has been handed down from generation to generation.(その祭りは代々継承されてきた)
英語でも、「方法・方針」はfollowやstick to、「財産・地位・伝統」はinheritやsucceedといった形で、対象によって動詞を変える点が、日本語の踏襲/継承の違いと対応しています。
踏襲の意味
続いて、「踏襲」という言葉だけに焦点を当てて、意味や語源、類義語・対義語を整理していきます。
踏襲とは?意味や定義
踏襲(とうしゅう)とは、それまでのやり方や方針、制度などを改めず、そのまま受け継いで行うことを意味します。辞書的には「前任者のやり方をそのまま受け継ぐこと」「前例にならうこと」といった定義が一般的です。
ビジネスシーンでは、次のような文脈でよく登場します。
- 前例を踏襲する
- 従来の方式を踏襲する
- 旧モデルのコンセプトを踏襲する
ここでのポイントは、「良し悪しはともかく、今までのやり方を基本的に変えない」というニュアンスが含まれることです。必ずしも「進歩がない」「保守的すぎる」という否定的な意味ではなく、「実績ある方法を尊重する」「安定的に運用する」というポジティブな文脈で使われることも多くあります。
踏襲はどんな時に使用する?
踏襲を使う典型的な場面を、もう少し具体的に見てみましょう。
1. これまでの成功パターンを守るとき
売上を伸ばしたキャンペーンや、安定した運用ができている仕組みなど、すでに実績のある方法をそのまま使う場面では、「踏襲する」という表現がしっくりきます。
- 昨年成功したキャンペーンの構成を踏襲しつつ、細部だけブラッシュアップする。
- 採用フローは基本的にこれまでの手順を踏襲し、新しい選考ステップを一つ追加する。
2. ルールや慣例を変えない方針を示すとき
急激にルールを変えると混乱が生じる場合、あえて従来の方式を変えないことを明示するために「踏襲」を用います。
- 今年度の評価制度も、前年度の基準を踏襲する形で運用します。
- 会議の進め方は、これまでのスタイルを踏襲しつつ、オンライン参加を組み合わせる。
3. 前例を重視する文化を示すとき
官公庁や大企業など、前例を大切にする組織文化を表すとき、「前例踏襲」という四字熟語が使われます。
- 前例踏襲の文化が強く、新しい提案が通りにくい。
- 前例踏襲ではなく、ゼロベースで制度を見直す必要がある。
踏襲の語源は?
踏襲という言葉の背景には、漢字それぞれの意味があります。
- 踏:足で踏む、踏みしめる、跡をたどる、従う などの意味
- 襲:襲撃するのほかに、「重ねる」「受け継ぐ」という意味
「足跡を踏んでなぞるように、前の人のやり方を重ねて引き継ぐ」というイメージから、「踏襲=前例を受け継ぐ」という現在の意味になったとされます。
この「足跡をたどる」というイメージを意識すると、「新しい道を切り開く」のではなく、「すでにある道を確かめながら歩く」ニュアンスが理解しやすくなります。
踏襲の類義語と対義語は?
踏襲に近い意味を持つ言葉としては、次のようなものが挙げられます。
- 倣う(ならう)
- 模倣する
- 準拠する
- 受け継ぐ
- 継承する
- 墨守する(古いやり方をかたくなに守る)
- 伝承する(知識や技術を伝え受け継ぐ)
一方、対義語としては次のような語がよく挙げられます。
- 革新する
- 刷新する
- 更新する
- 変革する
- 打破する
文章を書くときには、「ここは前例踏襲なのか、それとも刷新・革新を打ち出したいのか」を意識して、語を選び分けると表現の精度が上がります。同じように、ニュアンスの近い日本語を整理したいときは、「記す」と「印す」の違いを解説した記事のように、漢字や由来から比較していくと理解が深まりやすくなります。
継承の意味
次に、「継承」の側に焦点を当てて、意味や使われる場面、語源や関連語を見ていきます。
継承とは何か?
継承(けいしょう)とは、地位・身分・財産・権利・義務・伝統などを、前の世代や前任者から受け継ぐことを意味します。辞書では「ひきつづいて、うけつぐこと。先代や先任者の地位や財産などを受け継ぐこと」といった定義が一般的です。
日常的には、「皇位継承」「事業継承」「文化の継承」「遺産の継承」といった形で使われることが多く、「受け継ぐ対象」が社会的に重要であったり、長い時間軸を持っていたりする点が特徴的です。
継承を使うシチュエーションは?
継承がよく使われるシチュエーションを、分野別に整理してみます。
1. 法律・相続・事業の文脈
- 父の遺産を継承する
- 中小企業の事業を継承する(事業承継)
- 権利・義務を継承する
2. 地位・身分の文脈
- 皇位継承
- 王位継承
- 家元を継承する
3. 文化・伝統の文脈
- 伝統芸能を継承する
- 地域の祭りを継承する
- 職人の技術を継承する
このように、継承は「世代をまたぎながら、価値のあるものを受け継ぎ守っていく」重みを持った言葉です。単なる「やり方」や「手順」の話であれば踏襲を使い、財産・地位・伝統など長期的な価値を持つものについて語るときに継承を使う、と意識するとよいでしょう。
継承の言葉の由来は?
継承という熟語は、漢字の成り立ちからも意味をイメージしやすい言葉です。
- 継:糸をつなぎ合わせる様子から、「つぐ・引き継ぐ」という意味になったとされる
- 承:両手で物を受け取る姿を表し、「受けたまわる・受け入れる」という意味
二つを合わせると、「前から受け取ったものを、次へとつなげていく」というイメージになります。皇位継承など、歴史や制度に関わる重要な概念としても用いられてきたため、単に物を受け渡すだけではなく、「歴史や責任を背負って受け継ぐ」という重みが込められていると考えられます。
継承の類語・同義語や対義語
継承の類語・同義語としては、次のような言葉がよく挙げられます。
- 承継(しょうけい)
- 相続(そうぞく)
- 世襲(せしゅう)
- 伝承(でんしょう)
- 引き継ぎ
- 受け継ぎ
対義語としては、次のような語がイメージしやすいでしょう。
- 断絶(だんぜつ)
- 廃止(はいし)
- 放棄(ほうき)
- 喪失(そうしつ)
例えば、「家業を継承する」か「ここで断絶させる」のか、「伝統を継承していく」のか「廃止してしまう」のかなど、対立する構図を意識して言葉を選ぶと、文章にメリハリが生まれます。類義語・対義語の整理に慣れておきたい方は、「ほか」「他」「外」の違いと意味を整理した記事のように複数語を比較する形で学んでいくのがおすすめです。
踏襲の正しい使い方を詳しく
ここからは、踏襲という言葉を実際の文章や会話で使うときのポイントを、例文・言い換え・注意点を交えながら具体的に見ていきます。
踏襲の例文5選
まずは、ビジネスシーンでそのまま使える踏襲の例文を挙げてみます。
- 新製品のパッケージデザインは、従来モデルのイメージを踏襲しつつ、高級感を加えました。
- 人事評価制度は前年度の枠組みを踏襲し、評価項目だけを一部見直しています。
- 今回のプロジェクトでは、成功事例の進め方を踏襲することで、リスクを最小限に抑えたいと考えています。
- 議事録のフォーマットは、これまでのスタイルを踏襲して構いません。
- 新店舗のコンセプトは、本店の世界観を踏襲しながら、地域性を取り入れる形にしました。
踏襲の言い換え可能なフレーズ
踏襲という言葉は便利ですが、同じ語を繰り返し使いすぎると文章が単調になってしまいます。場面に応じて、次のような言い換えも検討してみてください。
- 前例にならう
- 従来の方式を引き継ぐ
- これまでの手順をそのまま用いる
- 既存の方針を維持する
- 過去の成功パターンをなぞる
例えば、「昨年度の方針を踏襲する」という文は、「昨年度の方針を引き継いで進める」「昨年度の方針を維持する」といった形に言い換えることができます。ニュアンスの違いを知りたい場合は、「類義語・対義語・言い換え」に焦点を当てた記事を読むと、語感の整理がしやすくなります。
踏襲の正しい使い方のポイント
踏襲=「やり方」や「方針」を受け継ぐ言葉である点を、常に意識することが最重要ポイントです。
具体的には、次のような点に気をつけるとよいでしょう。
- 対象が「手順・方式・方針」であれば踏襲が基本
- 対象が「財産・地位・伝統」であれば継承を優先
- ポジティブにもネガティブにも使えるため、文脈でニュアンスを調整する
- 「前例踏襲」を多用すると、保守的・消極的な印象を与えることもある
例えば、上司への提案で「前例を踏襲するだけではなく、新しい試みも取り入れたい」と書けば、従来の実績も尊重しつつ改善の意思を示すことができます。一方で、「前例踏襲にとらわれる体質を改める」という表現にすれば、変革の必要性を強調することができます。
踏襲の間違いやすい表現
踏襲は漢字も読みも少し難しいため、誤読・誤用が非常に多い言葉です。
- 誤読の例:「ふしゅう」「ふんしゅう」「しゅうとう」など(正しくは「とうしゅう」)
- 誤用の例:「財産を踏襲する」「皇位を踏襲する」など → 通常は「継承する」を用いる
- 漢字の誤変換:「倒襲」「踏集」などの誤変換に注意
また、「前例を踏襲する」と「真似をする」は近い意味を持ちますが、踏襲には「一定の根拠や実績があるものを尊重して継続する」というニュアンスも含まれます。ただ単に「コピーする」「丸写しにする」といった意味ではない点に気をつけましょう。
継承を正しく使うために
次に、継承という言葉を具体的な文脈でどう使うか、例文や言い換え表現、注意点を整理していきます。
継承の例文5選
継承を使った代表的な例文を挙げてみます。
- 父から家業を継承し、三代目として会社を切り盛りしている。
- この地域の祭りは、何百年にもわたって住民によって継承されてきた。
- 皇位継承のルールについて、憲法学の観点から議論が続いている。
- 創業者の理念を継承しつつ、時代に合わせたサービス改善を進めている。
- その若手職人は、師匠の技を忠実に継承していることで高い評価を受けている。
継承を言い換えてみると
継承も、文脈に応じて別の表現に言い換えることができます。
- 家業を継承する → 家業を「継ぐ」/「引き継ぐ」
- 文化を継承する → 文化を「守り伝える」/「次世代に伝える」
- 事業を継承する → 事業を「承継する」/「引き継ぐ」
- 技術を継承する → 技術を「伝承する」/「受け継ぐ」
文章のトーンによって、「継承」という漢語的で硬い言い回しを使うか、「継ぐ」「受け継ぐ」といった少し柔らかい言葉を選ぶかを調整すると、読み手に伝わる印象が変わります。
継承を正しく使う方法
継承の使い方で押さえておきたいポイントは、次の3つです。
- 「何を」継承するのかを具体的に書く(例:地位・財産・伝統・理念など)
- 時間軸・世代の流れを意識する(代々・次世代へ・長年などの語と相性が良い)
- 責任や重みが伴う場面で使う(皇位継承、事業継承、文化継承など)
例えば、「伝統を継承する」という表現には、「単に真似をする」のではなく、「その価値を理解し、責任を持って守る」という姿勢が含まれます。ビジネスの場でも、「創業者の理念を継承する」という言い方は、単に売上を受け継ぐのではなく、「会社の根本的な考え方・価値観を引き継ぐ」という意味合いを持つことが多いでしょう。
継承の間違った使い方
継承という言葉は便利ですが、何でもかんでも「継承する」と書いてしまうと、対象がぼやけてしまうことがあります。
- 単なる「手順」「方法」まで何でも継承と書いてしまう
- 「責任」や「義務」が伴わない軽い話題にまで多用する
- 「相続」と混同して、法律上の手続きのニュアンスを誤解させてしまう
例えば、「報告書の形式を継承する」と書くよりも、「報告書の形式を踏襲する」とした方が、実務的なニュアンスが伝わります。また、法律・税務に関わる相続や事業承継の話題では、専門用語として厳密な意味が求められるケースも多いため、正確な情報は公式サイトをご確認ください。状況によっては、最終的な判断は専門家にご相談ください。
まとめ:踏襲と継承の違いと意味・使い方の例文
最後に、この記事で整理してきたポイントを簡潔に振り返ります。
- 踏襲=やり方・方法・方針をそのまま受け継ぐこと
- 継承=地位・財産・権利・伝統など、社会的に重要なものを受け継ぐこと
- 踏襲は「前例踏襲」「従来の方式を踏襲する」など、ビジネスの運用面でよく使われる
- 継承は「皇位継承」「事業継承」「文化を継承する」など、長い時間軸と責任を伴う場面で用いられる
踏襲と継承の違いを自分の言葉で説明できるようになると、ビジネスメールやレポートだけでなく、ニュースを読むときの理解も一段とクリアになります。この記事で紹介した意味・語源・類義語・対義語・英語表現・使い方・例文を、ぜひ日々の文章作成のなかで少しずつ意識してみてください。

